UC(潰瘍性大腸炎)について
UC(潰瘍性大腸炎)は
どんな病気なの?
【監修】横浜市立大学附属市民総合医療センター 炎症性腸疾患(IBD)センター 内科担当部長 国崎玲子 先生
潰瘍性大腸炎は大腸の粘膜に炎症が起こる、原因のはっきりしていない病気です
潰瘍性⼤腸炎(かいようせいだいちょうえん)は、大腸の粘膜(ねんまく)に炎症が起こり、それによって粘血便(ねんけつべん)※1や下痢、腹痛などの症状があらわれる病気です。大腸の中でも、出口に近い直腸(ちょくちょう)から奥に連続した部位の粘膜や粘膜下層※2に、「びらん」や「潰瘍」という、粘膜の傷やただれが生じます。さまざまな要因が関与して潰瘍性大腸炎を発症すると考えられていますが、原因については現在のところはっきりしていません。
※1 粘血便:粘液(体から分泌される粘り気のある液体)を含む血便
※2 粘膜下層:粘膜の下にある層のこと

UC(潰瘍性大腸炎)の患者数は年々増加しています。30歳代以下でよく発症しますが、最近では高齢の発症者も増えています
日本では、この40年間で潰瘍性⼤腸炎の患者数が増加しています。潰瘍性大腸炎で2016年度に医療受給者証(いりょうじゅきゅうしゃしょう)※3をもらっている方の数(医療受給者証交付者数)は167,872⼈でした1)(図1)。性別による発症率の差はないと考えられています。30歳代以下で発症しやすいといわれていますが、最近では⾼齢の発症者も増えています(図2)。
※3 医療受給者証:潰瘍性大腸炎は厚生労働省が定める「指定難病(していなんびょう)」のひとつで、一定以上の重症度の方は申請により医療受給者証が交付され、医療費の助成を受けることができます。医療費助成制度について詳しくは、こちらをご覧ください。
潰瘍性⼤腸炎医療受給者証交付件数の推移

厚生労働省:衛生行政報告例・難病対策提要より作図
潰瘍性⼤腸炎の発症年齢分布

潰瘍性⼤腸炎の原因ははっきりしていませんが、さまざまな要素のかかわりが考えられています
現在、潰瘍性大腸炎を発症する原因ははっきりしていないものの、遺伝的な要因や環境要因、腸内細菌など、さまざまな要素が複雑にからみあって発症に至ると考えられています。
潰瘍性大腸炎発症に
かかわると考えられる要素
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遺伝的な
要因潰瘍性大腸炎の発症のしやすさに影響を与える遺伝子があるといわれています2)(ただし、お子さんも必ず潰瘍性大腸炎になるというような、いわゆる「遺伝疾患」ではありません)。 -
環境要因
食事(砂糖菓⼦の摂取)との関連や、⾷⽣活の欧⽶化、衛⽣状態の変化といった環境要因も影響していると考えられています。 -
腸内細菌
炎症性腸疾患(えんしょうせいちょうしっかん)※4では、健康な人と比べて腸内細菌の種類や量が異なると報告されていることから3)、腸内細菌が関与する可能性が考えられています。
※4 炎症性腸疾患:腸の炎症性疾患を総称した名称。⼀般に潰瘍性⼤腸炎とクローン病の2つを指します。
「腸の中ではどのようにして炎症が起こっているのだろう
~潰瘍性大腸炎の病態の機序~」
ヒトの腸には「免疫」の仕組みが備わっていて、口から腸に入ってくる外敵から自分の身を守っています。しかし潰瘍性大腸炎では、何らかの原因で免疫の仕組みがエラーを起こし、外敵だけでなく自分の腸の組織を攻撃してしまっています。そこでは一体どんなことが起こっているのでしょうか。
潰瘍性大腸炎の腸の粘膜には、免疫にかかわる細胞がたくさん集まっています(図3)。その中には多くの「リンパ球」が含まれ、それらは免疫の反応を活性化させる「サイトカイン」や「ケモカイン」を必要以上に作り出しています。
それではこのリンパ球は、どこから腸にやってくるのでしょうか?その答えは、からだをめぐる血液にあります。腸は、血管の壁に「接着分子(せっちゃくぶんし)」といわれる目印を出して、血中を流れるリンパ球を呼び寄せます。リンパ球の表面には「インテグリン」というたんぱく質がついており、「インテグリン」が「接着分子」にくっつくことで、腸の組織に入りこめるのです(図4)。
潰瘍性大腸炎の腸は、通常よりも多くの「接着分子」を出しています。こうして、腸の組織には多数のリンパ球が集まり、さらなる炎症につながっていくと考えられています。
腸の粘膜におけるリンパ球とサイトカインの様子

血中から腸にリンパ球が入りこむ様子

【出典】
1)厚⽣労働省:衛⽣⾏政報告例 平成28年度 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数, 年齢階級・対象疾患別
2)⽇本消化器病学会編:炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン2016, 南江堂, 東京, pp.1-11, 2016
3)⼤草敏史:モダンメディア, 60(11):325-331, 2014